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炎立つ 大河ドラマ 感想

古代から中世にかけて奥州で栄華を極めた藤原氏のはじまりと滅亡を三部にわたってえがいた大河ドラマです。よく言われることですが、第三部では脚本家が変わり、出来が非常によくないです。一、二部の感想メインで書いていきます。

第一部 北の埋(うず)み火

奥州藤原氏初代・藤原清衡の父である藤原経清という武将が主人公です。このドラマを観るまで聞いたことのなかった人物ですが、非常に魅力的に描かれていると思いました。

通常、源氏は善玉として描かれることが多いですが、この物語では敵として登場し、源義家以外は浅ましく、卑怯な人物の集まりとして描かれています。

当時の平均視聴率が17.7%と振るわなかった理由に主人公の知名度の低さや、世間的なイメージとのズレがあるのかもしれません。

しかし、作品そのもののクオリティとはまた別の話ですね。少なくとも自分は、第一部、第二部は大河ドラマの中で上位に入るおもしろさだと思います。

藤原経清は幼い頃に母と別れ、奥州に移り住みます。父が朝廷から陸奥守の補佐官として任じられたからです。

陸奥守・藤原登任や後任・源頼義は奥州の金や権力に目がくらみ、奥州最大の豪族・安部氏に戦を仕掛けます。

まず無理難題をふっかけ安倍氏を挑発する、源頼義のやり方が陰湿です。年貢を倍増したり、安倍家棟梁の安部頼時に酒宴の席で芸をすることを強要します。頼義役の佐藤慶が非情な人物像を実にいい雰囲気で演じていると思います。

安部側は耐えるのですが、安倍頼時の子・貞任が源氏の罠にはめられてしまいます。貞任の首を要求され、耐えかねた安部は挙兵します。

余談ですが、映画の巨匠・黒澤明はこの安倍貞任の子孫らしいですね。家系図を遡ると貞任の三男に行き着くようです。

主人公の藤原経清は安部貞任の妹を妻にしており、安部とは親戚になっておりましたが、自身の役目に忠実に、源氏(朝廷側)につきます。

しかし、友人で同じく安部から妻をもらっていた平永衡が、源頼義に謀殺されたことに義憤を覚え、安部側に寝返ります。永衡の遺体と対面した経清は叫びます(第7話)

(平永衡の)首を切れ……首を切れーっ!!

殺されたなら殺されたらしく……首を切れーっ!!

首を、首を切れーっ!!

自らの手で永衡の首を切断し、それを抱え、経清は霧の立ち込める闇の中、陣を去ります。このシーンは作中もっとも印象的でした。これから経清が身を投じる戦いの過酷さ、待ち受ける悲惨な運命を暗示した見事な演出だと思います。

帰ろうぞ、永衡…

そなたが好きだった衣川へ…

陸奥の奥へ…帰ろうぞ

奥六郡じゃ…安部のもとへ…

ともに帰ろうぞ…のう、永衡…

帰ろうぞ……

藤原経清のウィキペディアを要約すると「平永衡と同様の危機が迫っていると判断した経清が再び安部氏に属した」とあります。

なにやら臆病な人物ともとられかねない表記ですが、大河ドラマでは読んで字のごとくドラマチックに描かれています。

中央のエリートがその地位を捨て、地方の虐げられている人々のため立ち上がる重要なシーンですが、その決断のキッカケは友の犠牲によるものなので、悲壮感をおびたものになっております。

そして義兄である安倍貞任と合流し、涙ながらに熱く抱擁します。

物語で戦いを描く以上、悲壮感と熱さの両輪が作品を名作へと昇華させるのではないかと思います。

黄海の戦いでハンニバルのアルプス越えよろしく、源頼義は冬に安部に戦いを挑みますが、逆に大敗を喫します。頼義は落ち延びようとしますが、藤原経清に見つかります。経清は見て見ぬフリをして見逃すのですが、頼義はコケにされたと逆恨みします。父親とは対照的に、義家はこのことに恩義を感じ、第二部で描かれる清衡との共闘の伏線となります。

ここで見逃さなければ後の悲劇は生まれなかったという、主人公が「やらかした」シーンですが、ここに関しては違和感がありますね。武士の情けを描いていますが、源頼義親子は殺さず捕えて都に送ればよいわけですから、見逃す理由がわかりません。物語の説得力よりも第二部への伏線を優先させたのではないでしょうか。

しばらく平和が続きますが報復を考える源氏が、出羽の豪族・清原氏と手を組みます。そして安部貞任の妻が源義家と内通し、安部は滅びの道を歩みます。

敗北した藤原経清は投降し源頼義の前にひきつれられます。再度、自分の部下にならないかと諭す頼義に対し経清は

豚め!!

なにが武門の棟梁じゃ、なにが源氏の大将じゃ

うぬが考えておることは、ただの欲得のみ!!

ひたすら朝廷にひざまずきよる安部に対して、和議をぶち壊し

陸奥へのいやしき下心にて、戦を引き起こした張本人じゃ

何千という此度の犠牲者はすべてうぬの、

計算高い欲得の血祭りに饗されたのだ

兵どもの血をすするケダモノ。

腐った贓物しか持たぬ、食い意地のはった豚め!!

豚の家来にはならん!!はよう首をはねられよ

頼義はかつて経清の部下だった男に斬首を命じます。この人選に頼義の残酷さがうかがえます。すぐに絶命しないよう、刃を岩にたたきつけギザギザにした刀で経清は処刑されます。

そして安部の館が焼かれ第一部は終わります。救いのない滅びを描いた壮絶なラストでした。

「冥(くら)き稲妻」

復讐劇です。源氏と清原氏に父・経清を殺された清衡が主人公です。清衡の母・結有は夫である経清の仇・清原に嫁ぎ家衡を産みます。清衡は清原の養子となっております。

親を殺され母が仇のものとなるという境遇は源義経とダブりますね。余談ですが「ますらお 秘本義経記」という漫画で、義経は心に闇を抱え復讐に燃えるダークヒーローとして描かれており、本作の清衡とどこか通じるものがあります。

清衡はいかにも主人公然とした、優等生っぽい村上弘明が演じておりますが、時折見せる心の闇がギャップになってとても魅力的でした。一部で経清を演じた渡辺謙とはまた違った魅力があります。敵となる異父弟・家衡を演じたのは豊川悦司です。苦労知らずで人を見下した嫌な若者を見事に演じています。

印象に残ったシーンは第18話。人を人とも思わない家衡の人物像が描かれます。寝屋に呼んだ女の遺体を発見された家衡は

死んでおるようでござるの

何のかんの言うて、手前のしたいようにさせぬのじゃ

それでついカッとなって首を絞めたら…

心配めさるな。

あとで手前の手下のものに始末させればよい

家衡は何かが欠落しているともとれる演出です。

ちなみに遺体はこれより前のシーンで登場するのですが、手を縛られ凄まじい形相をしています。一昔前の大河ドラマは手加減なしです。

同じく18話。清衡と家衡は碁を打ちながら幼き日の思い出話に興じます。家衡が衣川で溺れた時に清衡に助けられたときの話。家衡は清衡の背中が頼もしく思えたと、それ以来、兄をたよりにしていると。二人は笑い合います。そして清衡が席をはずしたあと、家衡は不気味な表情でつぶやきます。

「ぶっ殺す」

このシーンはインパクトがありました。視聴者側にゆっくりと振り向いたのちのセリフですから、まるで自分が言われているような迫力です。直前までほがらかないい話だったのに、いきなり冷水をかけられた気分です。

一方、清衡はあのとき溺れていた家衡がこのまま死なないかと見ていたら、誰か人が来たので慌てて助けたのだと母に語ります。

このドロドロした表面上は仲良くしながらも、相手を心底憎んでいる感じは、まさしく戦乱の世ですね。兄弟で殺し合う物語なのだから、このように心底憎しみ合っているように描くべきです。かなり見ごたえのあるエピソードでした。

19話では清衡の妻子が家衡に殺されます。この藤原清衡という人物、とんでもなくハードな人生を送っていますね。父を鋸引きで殺され、その仇に母を奪われ、仇と母の間に生まれた弟に妻子を殺される。精神が崩壊してもおかしくないレベルです。

心に闇を抱える清衡とは対照的な、心清らかな、明るくやさしい妻。この女性が清衡の心の光になっていたことは間違いなく、だからこそ殺されたとき憎しみの炎が一層増します。

最終話の20話で兵糧攻めをおこない、清衡は家衡に勝利します。命乞いをする家衡と一言も交わすことなく、斬首するシーンもかなりインパクトがありました。

「兄者ーーーーー!!!!!!」

第一部の誇り高い経清の死に様とは対照的な惨めな死でした。

第二部は8話しかないので最後のほうは少々かけあしでした。あと2~3話あってもよかったとは思いますが、一部とともに傑作といっていい出来でしょう。


3部の感想は割愛します。