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真夏の方程式 東野圭吾 感想

玻璃ヶ浦の開発説明のため、企業に専門家としてまねかれた先で、湯川が事件と遭遇するといったガリレオシリーズでは珍しい展開ですね。東京以外だととたんにアウェイ感が出て新鮮でした。
さらに、湯川が少年のためいっしょにロケットを飛ばしたり、宿題、ゲームをしたりと、意外な一面が描かれます。従来作とはいい意味で違う印象ですね。
このように楽しい部分はたくさんあったのですが、事件のほうはなんだか釈然としなかったですね。

ここから先はネタバレありなんで未読の方は注意してください。
事件のトリック自体は、一酸化炭素中毒をおこさせるため、脚の不自由な犯人が自身に代わり、子供を言葉たくみに騙し、煙突にダンボールでフタをさせるというものでした。シンプルでよくできたアイデアだと思います。短編向きのアイデアだと思いますが、それを長編まで膨らませる作者の手腕もさすがだな、と思います。
トリックを解くための情報はさほど提示されていないので、トリックをあばくより、重治とその家族の過去に何があったのか、仙波英俊は何者なのかとか過去を探っていく過程を楽しむ物語ですね。
作中では2度殺人が行われており、どちらも動機の弱さを感じました。16年前に成実がホステスを殺害した事件ですが、家族の秘密を知ってゆすりにきた相手とはいえ、中学生の女子が大人を刺し殺すには、説得力がなかったですね。その日はじめて会った人を殺すなら、もうちょっとその女のクズっぷりを描いたほうが説得力があったんじゃないでしょうか。このへんは映画のほうがうまいことクズな感じでよかったと思います。
東野圭吾は少年犯罪を描くのが好きですね。デビュー作の「放課後」の犯人は高校生でしたし「さまよう刃」は少年犯罪そのものをテーマにしています。「虚ろな十字架」では、二人の男女が十代の頃に犯した罪に苦しみながら生きています。男は医者になって自分なりの贖罪を、女のほうは精神を病み、ひたすら転落する人生を歩んでいましたが、結局二人で自首します。この男女のように何故、成実に自首させる道を作者が選ばせなかったのかは殺人の質でしょうか。「虚ろな十字架」の二人が殺したのは生後間もない赤ん坊で、成実の殺したのは卑劣な恐喝者です。
重治が塚原を殺すのも説得力がなかったですね。成実が自分の娘じゃないことは家族の暗黙の了解みたいになってるような描写でしたし、成実の殺人をいまさら証明できるとも思えませんし、わざわざ殺す意味があったのか疑問です。そもそも、塚原はそのことで脅迫しようなどたくらんではいない、むしろ善意の人です。重治ってちょっとサイコパス入ってませんかね?秘密を知っているだけの人を、子供を利用して殺すところや、いままさに塚原が死のうとしているときに、手を合わせる所作がちょっと怖かったですね。彼が殺人の罪に問われず、死体遺棄と偽証罪だけですむのは納得がいかないです。しかし、本当の罪にとわれるということは、恭平くんが、小学生でありながら、背負いきれない十字架を背負うことになりますからね…
この物語の一番の見どころは子供嫌いだったはずの湯川と恭平の交流だと思いますし、釈然としない重治の処遇も物語的にしょうがないのかもしれません。
最後に湯川が恭平にかけてあげた言葉がとてもよかったです。