漫画、小説、映画などの感想

漫画や小説など最近読んだ本、あるいは映像作品などの感想を書いております

2021年版 DUNE/デューン 砂の惑星 映画感想

個人的にどストライクの映画でしたが、最初から最後までノンストップで面白いタイプの作品ではないですね。
わかりやすい代わりに内容のないジャンクフードみたいな映画とは一線を画すので、一般受けはしないと思います。
序盤は主人公とは関係のないところで陰謀が推し進められるシーンや作中用語も頻繁に出てきて、非常にとっつきにくいですね。この作品を楽しめる人材かふるいにかけられているような印象を受けました。
砂漠の惑星・アラキスにたどり着いてからは次々とトラブルに見舞われ、アクションやSFならではの見ごたえあるシーンも続くので娯楽性が高くなります。ときおり挿入される未来視のシーンが冗長で物語のテンポを大きく削ぐのがストレスに感じますが、致命的というほどではないでしょう。いいところで終わっているので続きが気になります。
世界観が未来で宇宙を舞台にしているのに政治体制は中世っぽくて、銀英伝を思い出しました。原作はスターウォーズやナウシカに影響を与えたと言われておりますが、銀英伝も影響を受けてるんじゃないですかね?
世界観のみならずストーリーも中世の英雄譚のようで、そういったものが好きな自分は、続編も観に行きたくなりました。

兇人邸の殺人 感想

この作品をふくめ、シリーズ3作すべて読んでいますが、1番面白かったです。ぐいぐいと引き込まれて一気に読んでしまいました。
前2作のほうが話の出来はよかったような気がしますが、主人公たちのおかれている状況のヤバさとか、不木の研究の犠牲になった悲劇っぷりなど、読み応えがハンパなかったです。
この小説を楽しむのなら、館のマップを文章と照らし合わせながら、兇人邸の内部構造をある程度把握しておくことが大事ですね。なるべく早い段階に、大雑把でよいので、頭の中で見取り図を再現できるようにしておくのが望ましいでしょう。

  • 広間からしか地下(主区画、副区画)に行けない
  • 主区画は複雑なつくり
  • 副区画はシンプル
  • 主区画と副区画と別館(巨人の居住区)は首塚を経由しなければ行き来できない
  • 首塚は吹き抜けになっており、光を嫌う巨人は夜にならねば行き来できない

これさえ覚えておけば話は理解できると思います。
これらの情報は出そろった時点で、1度まとめて登場人物の誰かに語らせてほしかったですね。前2作では登場人物に関しては情報が出そろった段階で、名前と照らし合わせてくれましたが、今回はそういうのはなかったです。ああいった親切心が好きだったんですが、なくなってしまったのは残念です。

ここから先はネタバレありなんで未読の方は注意してください。

とても面白く読めた本作ですが、これはちょっとどうかな?という点もちらほら見受けられました。
たとえば、剛力京とケイは共通点が多く、同一人物であると予想して読み進める人が多いと思います。京はケイと読めますし、2人ともかに座であるとか、京はナルコレプシーでケイは居眠りばかりする点ですね。剛力京が不木を殺害したのも剛力京=ケイ説を後押しします。これは意図的に作者が仕掛けたミスリードなわけですが、共通点があまりにも多すぎます。さすがに星座やナレコレプシーはやりすぎかと思いますね。こんだけ共通点が多いのに別人って逆にすごいような…巨人の正体がケイだったとあきらかになったとき、読者に衝撃をあたえるためにミスリードを仕掛けたんでしょうけど、少々くどすぎます

だって私は蟹座だし。コウタは天秤座でしょ。私の方が生まれは早いじゃない。

こんなセリフが序盤にさらっとあって、後半に剛力京がかに座で剛力智がてんびん座という情報が提示されてたら
剛力京=ケイ
剛力智=コウタ
巨人=ジョウジ

って、読者は確信すると思うんですよね。この展開で同一人物でなければ、星座の情報っているんでしょうか?
たしかに巨人=ケイと知ったときの衝撃はすごいもんがあったんですが、星座に関してはちょっと行き過ぎたミスリードだと思います。

あと、比留子が逃げ込んだ部屋に巨人が入ってこないことについて、あまり言及されないことに違和感を感じました。終盤でなぜ巨人が近づかないのか明かされますが、巨人の居住区内で頑強な扉もない部屋にいるのですから、その状況の危うさはもっと作中で強調されてもよいように思います。

裏井が雑賀を殺害した動機についてもちょっと共感しづらいな、と思いましたね。とってつけたような感もありました。
たとえば、ケイが正気だったころに大事にしていたものを盗んだとか、そんなののほうがよかったんじゃないでしょうか?

イマイチに感じた部分を何点か書き連ねましたが、冒頭でもいったように、この作品めちゃくちゃ面白かったんですよ。だからこそ気になる点も出てくるわけです。このシリーズへの愛が語らせるわけです。良かった点なんてそれこそ枚挙に暇がないですから。
スキンヘッドだから隻腕では複数いっしょに運べないとか、再生能力をいかした血のトリックだとか、自身の口内に鍵を入れ巨人に運ばせるとか、よくこんなこと思いつくなと感動すら覚えましたからね。

余談ですが一作目の感想でアニメ向きといいましたが

nakanet.hatenablog.com

今作は残酷すぎて映像化しづらそうですね。

私が彼を殺した 東野圭吾 感想

加賀恭一郎シリーズです。あらすじはWikipediaによると

脚本家の穂高誠が、結婚式当日に毒殺された。容疑者は被害者のマネージャー、花嫁の兄、敏腕編集者の3人。事件後、3人は密かに述懐する。『私が彼を殺した』と。

東野圭吾は好きな作家ですが、解決を書かないのはどうなんですかね?
この作品より前に「どちらかが彼女を殺した」って作品も同じように解決まで描かれていないので、このやり方は当時の読者には「アリ」と受け入れられたということでしょうか?
刊行当時が1999年ですから、ネットがいまほど普及はしていなかったので犯人がわからない人はずっとわからなかったんじゃないでしょうか?わかっても答えを確かめる術がないですし、ストレス溜まったと思うんですよね。
ストーリー自体はおもしろくてすいすい読めました。被害者の穂高のクズっぷりが清々しいレベルで、死んだときは胸がすく思いでした。
容疑者3名のうち神林貴広は作者が意図的に感情移入しやすく書いているのかもしれませんね。犯人は彼であってほしくないという感覚で読み進めました。こういう人多いんじゃないでしょうか。
誰が殺したのか自分にはわからなかったので、ネットで調べましたが、答えがわかってからもいまいちピンと来なかったです。
犯人当てよりも探偵役が鮮やかに事件を解決する様を見たい人にはオススメしません。面白く読み進められますが、最後に消化不良になります。
逆に何度も読み返し、犯人は誰なのか、どうやって殺害したのか考える人には楽しめると思います。

悪意 東野圭吾 感想

加賀恭一郎シリーズの4作目です。シリーズ屈指の面白さでした。おおまかなあらすじはWikipediaによると

有名小説家の日高邦彦が自宅で他殺体となって発見された。刑事の加賀恭一郎は、日高の親友である児童小説家の野々口修が書いた「事件に関する手記」に興味を持つ。加賀は聞き込みや推理を通して、野々口の手記に疑問を抱くようになる。やがて犯人が明らかになるが、犯人は犯行の動機を決して語ろうとはしないのだった…。

ここから先はネタバレありになりますので未読の方は注意してください。

物語が大きく二転三転するのでインパクトがあり、読む手が止まらず、一気に読了しました。
野々口が日高のゴーストライターだったんだろうな、とは思いながら読んでいたのですが、それが野々口の仕組んだ罠であったと知ったときはゾっとするものがありました。日高の命を奪っただけでなく、最初の奥さんの名誉も傷つけ、生前の功績を全部奪うとか、もうどんだけ底知れない悪意なのかと。それをするため、めちゃくちゃ手の込んだことをしてるし。
野々口が日高に悪意を持つキッカケも、やけにリアルに感じました。もともとはしょーもない劣等感なんですよね。それが育っていって、決め手は過去の強姦事件の真相を日高に知られたこと。才能だけでなく人間性まで大きく劣るということが、彼に知られてしまった、とそういうことだと思います。映画アマデウスを思い出しますね。男の嫉妬は女のそれよりはるかに恐ろしいので、野々口の手のこんだやり口も説得力があります。推理、娯楽作品でありながら、タイトルである人間の「悪意」をうまいこと描いた作者の力量に脱帽です。

真夏の方程式 東野圭吾 感想

玻璃ヶ浦の開発説明のため、企業に専門家としてまねかれた先で、湯川が事件と遭遇するといったガリレオシリーズでは珍しい展開ですね。東京以外だととたんにアウェイ感が出て新鮮でした。
さらに、湯川が少年のためいっしょにロケットを飛ばしたり、宿題、ゲームをしたりと、意外な一面が描かれます。従来作とはいい意味で違う印象ですね。
このように楽しい部分はたくさんあったのですが、事件のほうはなんだか釈然としなかったですね。

ここから先はネタバレありなんで未読の方は注意してください。
事件のトリック自体は、一酸化炭素中毒をおこさせるため、脚の不自由な犯人が自身に代わり、子供を言葉たくみに騙し、煙突にダンボールでフタをさせるというものでした。シンプルでよくできたアイデアだと思います。短編向きのアイデアだと思いますが、それを長編まで膨らませる作者の手腕もさすがだな、と思います。
トリックを解くための情報はさほど提示されていないので、トリックをあばくより、重治とその家族の過去に何があったのか、仙波英俊は何者なのかとか過去を探っていく過程を楽しむ物語ですね。
作中では2度殺人が行われており、どちらも動機の弱さを感じました。16年前に成実がホステスを殺害した事件ですが、家族の秘密を知ってゆすりにきた相手とはいえ、中学生の女子が大人を刺し殺すには、説得力がなかったですね。その日はじめて会った人を殺すなら、もうちょっとその女のクズっぷりを描いたほうが説得力があったんじゃないでしょうか。このへんは映画のほうがうまいことクズな感じでよかったと思います。
東野圭吾は少年犯罪を描くのが好きですね。デビュー作の「放課後」の犯人は高校生でしたし「さまよう刃」は少年犯罪そのものをテーマにしています。「虚ろな十字架」では、二人の男女が十代の頃に犯した罪に苦しみながら生きています。男は医者になって自分なりの贖罪を、女のほうは精神を病み、ひたすら転落する人生を歩んでいましたが、結局二人で自首します。この男女のように何故、成実に自首させる道を作者が選ばせなかったのかは殺人の質でしょうか。「虚ろな十字架」の二人が殺したのは生後間もない赤ん坊で、成実の殺したのは卑劣な恐喝者です。
重治が塚原を殺すのも説得力がなかったですね。成実が自分の娘じゃないことは家族の暗黙の了解みたいになってるような描写でしたし、成実の殺人をいまさら証明できるとも思えませんし、わざわざ殺す意味があったのか疑問です。そもそも、塚原はそのことで脅迫しようなどたくらんではいない、むしろ善意の人です。重治ってちょっとサイコパス入ってませんかね?秘密を知っているだけの人を、子供を利用して殺すところや、いままさに塚原が死のうとしているときに、手を合わせる所作がちょっと怖かったですね。彼が殺人の罪に問われず、死体遺棄と偽証罪だけですむのは納得がいかないです。しかし、本当の罪にとわれるということは、恭平くんが、小学生でありながら、背負いきれない十字架を背負うことになりますからね…
この物語の一番の見どころは子供嫌いだったはずの湯川と恭平の交流だと思いますし、釈然としない重治の処遇も物語的にしょうがないのかもしれません。
最後に湯川が恭平にかけてあげた言葉がとてもよかったです。