漫画、小説、映画などの感想

漫画や小説など最近読んだ本、あるいは映像作品などの感想を書いております

屍人荘の殺人 今村昌弘 感想

アイデアが斬新でとても面白い作品だと思いました。
文章や物語のテンポがよく、とても読みやすかったです。トリックの説明がわかりやすく、読者に登場人物を覚えやすくするための配慮がなされており、リーダビリティの高さも魅力ですね。キャラクターの造形や文章がどこかラノベっぽいですし、ふだん推理小説を読まない層にもアピール出来るんじゃないでしょうか?

映画化していますが、むしろアニメ向きでしょうね。映画のほうも観ましたが、ヒロインの女の子がやたらかわいいという点以外、とくに観るべき点はないヒドイ映画でした。しかし、うまいことメディアミックスすればもっと発行部数のびるんじゃないでしょうか。現在、シリーズ累計で100部突破らしいですが、それ以上のポテンシャルはあると思います。

ここから先はネタバレありなんで未読の方は注意してください。
まさか明智が早々に脱落するとは思わなかったです。探偵役の明智とワトソン役の主人公のコンビが事件を解決していくものとばかり思っていたので、衝撃的でした。明智の残念イケメン感がとても好きだったので、ゾンビ化して死んじゃうのが辛かったですね。
明智と主人公のコンビって感情移入しやすかったんですよね。リア充の輪にくわわれない推理オタク2人でつるんでいるのが、森見登美彦の小説に出てくるしょっぱい大学生みたいで非常にシンパシーを感じました。個人的に応援したくなる要素ばかりで構成されいる明智ですが、死ぬのは物語の必然だとは思います。魅力的すぎるので、死ななければ、きっと主人公は完全に喰われてしまうと思うんですよね。

ゾンビが出てくるという、かなり特殊な推理小説ですが、すんなり受け入れられました。漫画とかアニメに日常的にふれている人なら、とくに抵抗はないんじゃないでしょうか。こういうのは特殊設定ものっていうんですかね?森博嗣や市川憂人のようなSF設定よりはとっつきやすかったです。
面白すぎて、最初に読んでから数か月後にもう一回読んでしまいました。

ブルーピリオド 感想

10巻まで読みました。高2の時点で経験値ゼロの状態から東京芸大を目指す受験編は、美術部なのにスポーツ漫画的な面白さを感じました。
タッチもスラムダンクも主人公は高校入るまでは未経験でしたよね。経験がなくて様々なテクニックがないぶん自分の長所、限られた武器を使って、うまく立ち回るところなんかがよく似ていると思います。
がむしゃらな情熱がいかにも青春って感じがしてよかったですね。熱中出来るものに出会う前と後で人間が変わるじゃないですか。青春時代、何か目標を持って努力したことがあるなら人間なら応援したくなるのが人情だと思います。私立はいけないから東京芸大一本に絞って受験ってのも緊張感がありました。
明確なゴール地点があった受験編とくらべると大学編は、またちょっと違った雰囲気になりましたね。芸術やってる人の群像劇って側面は受験編の頃からありましたけど、よりそこに比重が置かれている印象を受けます。面白さの質が変わったというか、自分はあまり興味を惹かれませんでした。
この作者さんって女性ですよね。表現とか人物描写が少女漫画っぽさを感じます。男性キャラはいかにも女の人が描く男の子って感じですし、女性キャラは男はこうは描けんわなぁと思うところがちらほら。
最後にちょっと、これはどうかと思うところなんですけど、序盤でサッカーを友人たちと観て、自分とは関係ないところでおきてることなのに、熱中してる自分に虚しさを感じるシーンってまんま「最強伝説黒沢」の冒頭じゃないですか。観てるシチュエーションもスポーツも心情もいっしょって、さすがにどうかと思いますね。ほかの作品に影響うけるのは悪くないんですが、影響うけた作品の中身の部分を盗まなきゃいけないのに、表面盗んでどうすんの?って思いました。せめてもう少し上手にパクってほしかったです。

容疑者Xの献身 東野圭吾 感想

いろんな賞を受賞しているだけあって傑作ですね。多作な作者の中でもとくに評価の高い作品の一つです。
物語のかなり序盤で殺人がおきるので、物語への興味が早い段階でわき、最後まで飽きることなく読み終えました。
ガリレオ、予知夢とシリーズの前2作を読み、主人公の湯川学は他のシリーズの加賀恭一郎ほど魅力を感じなかったのですが、この作品でだいぶ印象が変わりました。意外と友人想いなんですね。
この作品は誰が犯人かはわかっているので、犯人当てとはまた違った読み味でした。東野圭吾作品だと「赤い指」も、読者が誰が犯人かわかってる状態で読み進める話でしたね。
元夫を殺害した母娘とその犯行を隠蔽する隣人・石神とのやりとりは、他人の秘密を除いているような気分になり、引き込まれました。
この石神は非常に魅力的な登場人物ですね。天才的な数学の才能がある反面、生き方がとても不器用です。元夫を殺した靖子に惚れていますが、想いを告げることはしようとしません。天才的な才能とトレードで感性の部分が未発達なのではないでしょうか。

石神が内心馬鹿にしている文学や芸能

とか

それまで彼は何かの美しさに見とれたり、感動したことはなかった。芸術の意味もわからなかった。

という描写からうかがえます。
天才には右脳あるいは左脳が発達した分、もう一方が未発達の人がいるといいます。才能は大いなる欠陥とはよく言ったものです。
石神の隠ぺい工作は、純粋ながらも狂気じみたものを感じました。

ここから先はネタバレありなので、未読の方は注意してください。

遺体の顔が潰されている時点でカンのいい人なら、死体交換のトリックだと気づくかもしれませんが、自分はその可能性を完全に失念していました。それはDNAが一致していたからなんですけど、まさかDNA自体が別人のものだったとは思い至らなかったです。元夫は家や車がないので、DNAの採取場所は直前まで利用していたレンタルルームですから可能です。ここらへんは作者の手腕に舌を巻きましたね。
関係のないホームレスを殺害し、その遺体を元夫のものだと警察に勘違いさせる。そのホームレスを殺害した時刻に母娘はアリバイがある、ってよくこんなこと思いつくと思いました。
推理小説って作者と読者の知恵比べみたいところってありますが、完敗でしたね。
すべての謎が解けてから「いや、これわかるわけねーよ」とか「は?」ってなる負けはいままでの読書体験でいくらでもありますけど、この作品に関してはケチのつけようがなかったです。
物語のところどころにホームレスの描写があったので、これは絶対に何かあるぞ、とは思っていましたが、まさかこう来るとは…
桁外れの傑作だと思います。推理ものとしても物語としても最上級の面白さでした。

これほどの作品ですが、批判もあるようですね。「本格」じゃないとか「感動的なラスト」ではない、とか。
自分は本格推理の定義なんて知らないので何とも言えません。
「感動的なラスト」に関しては、少なくとも作者が石神の行為を感動的なものとして書いていないのは間違いないです。石神が手にかけたホームレス「技師」は再就職の道をあきらめていない、未来を夢見ていた人間で、石神はそのことを知ったうえで殺害しているわけですから。
感動的に書きたいなら殺害されるホームレスはもっとどうしようもない人物として描いたはずです。
作者は石神を魅力的に書きたいとは思っても、その行為を正当化しようとは微塵も思っていないでしょう。

暗闇の囁き 綾辻行人 感想

綾辻行人の文章は読みやすくていいですね。ページをめくる手が止まらず一気に読んでしまいました。「緋色の囁き」と比べると少々物足りなさを感じましたが、それでも面白かったです。
むかし流行った角川ホラー文庫で出ててもおかしくないような感じの話でしたね。ホラー要素とミステリー要素がほどよくミックスされた良作じゃないでしょうか。

こっから先はネタバレありなんで未読の方は注意してください。
厳粛な家庭環境で、同世代の子供たちが当たり前のように触れてきたメディアにふれたことがないから、主人公の拙い作り話ですら感銘を受けてしまうというイノセンスな兄弟の2人3役の会話ってのはゾっとしました。1人2役ならよくあると思うんですけど、だいぶサイコパス感がありますね。顔立ちが整ってるっていうのも、いかにもって感じで不気味ですし。
面白かったんですけど、欲を言えば主人公かヒロインが危険な目にあってほしかったです。兄弟に身体の一部を狙われるとか、後半にもう一波乱スリルがあってもよかったと思います。

ジュラシック・ワールド/炎の王国 感想

面白かったんですけど、前作ほどではなかったです。

ちなみに↓こちらが前作の感想

nakanet.hatenablog.com


今作最大の脅威であるインドラプトルは、前作のインドミナスほど迫力がなくて、少々物足りなかったです。
設定的に戦闘力は

インドミナス>インドラプトル

頭脳は

インドミナス<インドラプトル

なんでしょうけど、劇中の描写を観ると、インドラプトルの頭脳はインドミナスと同じぐらいの印象を受けました。前作のインドミナスもそうとう頭よかったですからね。
逆に戦闘力はあきらかにインドミナスのほうが上の印象を受けます。デカさが全然違いますから。なのでどうしてもインドラプトルはインドミナスの劣化版って感じがします。シリーズものの悲しい宿命で、シリーズを重ねるごとに敵が強くならないとつまらないです。
インドラプトルは軍用に対人間を想定した追跡能力と鋭い嗅覚・暗視能力を持つので、その能力で登場人物の女の子を捕まえようとするわけですが、自分は映画に出てくる恐竜にそういうのはあまり求めないですね。第一作目のジュラシック・パークだけでお腹いっぱいです。恐竜は圧倒的な破壊力で蹂躙するのが一番面白いし、ドキドキすると思うのですが。

物語の舞台も前作と比べるとスケールダウンしています。前作は広くて人がたくさん集まるパークが舞台で、そこで恐竜が逃げだしたりして、パニック映画的な部分もありました。翼竜が人々を襲いまくるシーンとかヤバかったですね。今作の舞台は大きいとはいえ個人の屋敷で、襲われるのはろくでもない金持ちだけですから、だいぶ地味です。
単体で観ると面白い映画だとは思うんですけどね。

ただ、ラストの恐竜と共存する世界の映像は印象に残りました。とくにサーフィンしているところに、波の中から現れるモササウルスはめちゃくちゃ怖かったですね。サーフィンするような浅瀬に、あんなでかい生物が出現するかい、みたいなツッコミはこのさいナシで。
モササウルスは前作でも存在感バツグンでしたが、今作でも最初と最後に強烈なインパクトを残してくれました。そもそもモササウルスの形状がヤバいですよね。クジラの身体に、ワニの頭がついてるような感じですから最強生物感あります。
海を舞台にして、モササウルスの脅威と対峙するエピソードを続編で作ってくれないもんですかね?