漫画、小説、映画などの感想

漫画や小説など最近読んだ本、あるいは映像作品などの感想を書いております

モジャ公 藤子・F・不二雄大全集

藤子・F・不二雄先生の漫画の中でもファンの間でかなり評価の高い漫画です。

先生は21エモンの連載を続けたかったらしいですね。雑誌の連載を頼まれたとき、21エモンみたいなのをやらせてくれと言ってモジャ公がはじまったそうです。以下、巻末のあとがきより

(21エモンは)作者が面白がって書いたわりには読者が面白がってくれなかった。連載は終わらざるを得ません。書き残した材料は、まだまだあったのに。ま、よくあるケースです。

そこへ「ぼくらマガジン」から新連載の依頼がありました。低学年読者を対象としたギャグまん画を、ということです。そこで、ま、言ってみたわけです。

「”21エモン”を続けたいんだけど。もちろんキャラクターも設定も変えます。でも、中身は二番煎じになるけど。いいかな?」

”モジャ公”はこうして生まれました

主人公の少年、宇宙生物、ロボットの三人組は21エモンと同じキャラ配置です。彼らが宇宙のさまざまな星を冒険します。ちなみに宇宙船で冒険する海外ドラマ「宇宙船レッドドワーフ号(1988年-1999年)」という作品があり、自分はこれが大好きなのですがキャラ配置やキャラ同士の距離感なんかは通ずるものがあると思います。それでは気になったエピソードをいくつか

自殺集団

オットーが初登場します。この作品でもっとも印象的なキャラクターでした。トリックスターのポジションで、主人公の空夫たちはこいつのせいでアクシデントに見舞われます。悪いヤツなんですが、どこか憎めません。

空夫たちはフェニックスという星に到着します。フェニックスは一万年間、誰も死んでいない星で住民たちは年もとりません。死を未知なものとして住民はとらえています。死を見世物にして一儲けしようとオットーは空夫たちに持ちかけます。もちろん本当に死ぬわけではなく、途中で逃げ出すつもりだと言いくるめて自殺フェスティバルを企画します。こうして、自殺が国をあげての一大イベントになるあたり、かなりブラックユーモアがきいていますね。

空夫たちは徐々に外堀を埋められ、逃げることができない状況に追いやられます。自殺フェスティバル当日、ラジコンで無理やり体を動かされ、ギロチンにむかう空夫たちを救ったのは映画監督のタコペッティでした。

タコペッティは会場で戦争の映像を流し、自殺フェスティバルから観客の興味をそらします。自殺より戦争の方が刺激的に感じた観客はそちらを見に行き、会場は誰もいなくなります。この展開もかなりブラックユーモアですね。主人公たちの機転によって、危機を脱したわけではないのでカタルシスはないのですが、皮肉が効いたSFらしい展開だと思います。

天国よいとこ

タコペッティに連れられてシャングリラという星を調査するため、モジャ公にビデオを持たせて、偵察に行かせます。ビデオの映像を同じコマ割りで表現する演出はさすがですね。星の不気味さや、モジャ公が豹変していく恐怖が増します。まるでブレアウィッチプロジェクトのようです。モジャ公のほうが30年早い作品ですが。

失踪したモジャ公を追い、空夫とタコペッティはシャングリラに行きます。シャングリラは一見豊かで人々は幸せそうに見えますが、実際は誰もがすでに死んでいます。シャングリラは脳に信号を送り、実際にないものをあるように感じさせた、偽りの楽園でした。管理されたヴァーチャル世界を、マトリックスの30年前に物語のテーマにしています。

もらったつもり

食べたつもりで

生きてるつもり

ソンナノイヤダー

地球最後の日

最終話です。冒頭こそ治安が悪い星際都市・ポンコンからはじまりますが、物語の舞台は地球になります。地球にドクロ星が接近して、世界中が大パニックになります。オットーが預言者に化けてノア教団というあやしげな宗教を開き、人々はそれにすがります。いまでこそ、新しさはないですが、オウム事件とか以前に考えて、形にしているわけですから藤子・F・不二雄先生の頭脳はとんでもないですね。 

SF・異色短編の「箱舟はいっぱい」でも近いシュチュエーションは描かれましたが、テレビの放送事故で地球の危機があかるみに出たり、それを見た人々の浮き足立った描写などは秀逸ですね。

空夫たちがオットーに隕石について詰め寄るさいのやりとりなどは漫才のようで面白かったです。

「おまえのために死にかけたのはこれで二度目だ、もうだまされないぞ!」

「地球へ来てなにをたくらんでる」

「ハクジョウシロ!ドウセウソダロウケド」

「うそつけ」

「まだなにもいうてまへんがな」

お坊さんと神父と神主が隕石衝突をめぐり、どこの神にすがるかでケンカをはじめ、それを見たオットーが大爆笑するシーンなんかはすごく皮肉がきいてると思います。

たんまりとお布施を手に入れたオットーは逃げようとします。空夫たちにわざとあとをつけさせるのですが、このときオットーはベンツに乗っています。アザラシだかオットセイだかわからないような、へんな宇宙人がベンツを運転している絵はシュールで、かなりツボでした。

ドクロ星は巨人星のおもちゃで、隕石の衝突は自分が仕組んだものだとオットーは種明かしします。このときのオットーの表情は狂気じみています。空夫たちだけでなく、地球人全体をかついだ大悪党の顔といったところでしょうか。

モジャ公の手で計画は失敗し、オットーは冒頭で登場したポンコンの犯罪者たちに追われる身となります。

そして空夫たち三人はまた宇宙へと旅立ちます。