漫画、小説、映画などの感想

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T.Pぼん 藤子・F・不二雄大全集1巻 感想

藤子・F・不二雄先生の作品の中でとくに凄みを感じるのがSF短編とモジャ公とこの「T.Pぼん」です。読みきり形式なのに1話1話のクオリティが相当高いというとんでもない漫画です。
この漫画は、様々な時代の様々な境遇の人々が登場する娯楽性の高い作品ですが、いまいち知名度が高くないのはなぜでしょう?
連載していた雑誌がマイナー雑誌で後半は不定期連載になったからでしょうか?
自分としては、子供の頃読んだときは気になりませんでしたが、今回、数年ぶりに大全集で読んでみるとタイムパトロール隊の設定の甘さが引っかかりました。
やはりタイムパトロールの仕事が「過去に行って、過去の人物を助ける」というのが倫理的にどうなのか?と思いました。歴史を変化させない人物を、選んで助けるわけですがそういう人物となると世の中に影響をあたるような仕事もせず、子孫を残さず一生を終える人、あるいは子孫を残しても、その子孫がまったく歴史にかかわらず、2~3代ぐらいで途絶える人でしょうか?
こう考えると切ないですね。しかも、タイムパトロール隊があまり有意義な仕事をしていないような印象を受けます。
また、タイムパトロール隊は一銭にもならない慈善事業をしているわりに、一話でぼんを消そうとします。自分たちの過失でぼんにタイムパトロールの秘密を知られたのに、あまりにも身勝手です。100歩ゆずって、消されるべきは失敗した隊員のリームのほうでは……ゲフンゲフン
タイムパトロール隊はおかしな組織なので、この作品を楽しむコツは、あまり深いことを考えず「過去の困っている人を助ける話」と割り切って読みましょう。そうして読めば、間違いなくF先生の作品の中でも上位に入るおもしろさだと思います。
それでは気になったエピソードをピックアップ。

消されてたまるか

第1話です。物語の導入がうまいですね。主人公ぼんが友人と遊んでいたら、あやまってマンションからベランダから突き落とし、殺してしまいます。嘆いていると時がさかのぼり、元通り友人は何事もなかったかのように生きています。ぼんはキツネにつままれたような気分になります。
まず、友人を殺してしまうのがインパクトありますよね。そして時がさかのぼることでどうしたことかと興味がそそられます。
話題はそれますが、物語の導入部分と言えば、以前友人と話題になったのですが、大長編ドラえもん「のび太の魔界大冒険」の導入も相当うまかったと思います。自分そっくりの石像を見つけるというミステリアスでホラーチックな冒頭は一気に引き込まれてしまいました。
ぼんがタイムパトロールの秘密を知ってしまったことで存在を消されそうになるのは、前述した通りです。

魔女狩り

中世ヨーロッパの名もない市井の人がメインで登場するお話ってあんまりないですよね。そもそも、中世ヨーロッパ自体、あまり物語の舞台になる機会が少ないと思います。あまり身近に感じられないからでしょうか?
日本の中世期ですと、時代劇などでありふれていますし、国産RPGの影響を受けたエセ中世ヨーロッパ風ファンタジーも世にありふれておりますが、中世ヨーロッパそのものですと、あまり記憶にありません。映画ならそこそこありますが、その場合でも誰でも知っている英雄が主人公であることが多いです。なのでこのお話は新鮮に感じました。
婚約者のいる森の女の子・セリーヌが横恋慕している男・フェルナンに陥れられます。セリーヌが魔女狩りで殺されてしまう運命を、ぼんたちが阻止するお話です。フェルナンはセリーヌが自分のものにならないことに腹を立て、嘘の証言をしセリーヌを魔女裁判にかけるのですが、この男の自分勝手で無教養な感じがいかにも中世って感じがしますね。こんな人、現代にもいますけども。
セリーヌがすんでいる小屋も地面にワラが落ちていたりして、生活感があっていいですね。森の動物たちと仲良しなところがスクエニのRPG、ロマンシングサガに登場するクローディアっていう女の子みたいでちょっとなつかしい気持ちになりました。