漫画、小説、映画などの感想

漫画や小説など最近読んだ本、あるいは映像作品などの感想を書いております

シン・エヴァンゲリヲン劇場版𝄇 感想

途中まではかなり面白いと思って観ました。
避難民村でシンジくんが自分を取り戻すまでの過程は、全体からすると少々尺が長いと感じましたが、丁寧な描写には好感が持てました。
戦艦で敵地に乗り込んでバトルするのは最高に燃えましたね。いままでは自分たちのホームで敵を迎え撃っていましたが、今回は完全アウェイですから緊張感の質がまるで違うのが新鮮でした。
シンジくんが「落とし前をつけたい」って腹をくくってラストバトルに赴くシーンは
「オレはこういうのが観たかったんだよ」と感動すら覚えました。
しかし、ここがピークでしたね。

なんかよくわからない仮想空間だか心象風景みたいなバトルがはじまり、たいして魅力的でもない碇ゲンドウというキャラクターの自分語りが延々と続き、心底ウンザリしました。
妻に会いたいって、そんな理由のためにこの世界をめちゃくちゃにしたがるような奴には、なんの救いもない結末が待っているべきだと思うのですが、最後のほうで嫁を後ろから抱きしめてる映像とか出てきて、なんかいい話ふうになってるのにイラッとしました。

人類補完計画というものに具体性とか説得力が大きく欠けるのも、物語として致命的だと思うんですよ。
インパクトが起きるたび海だの大地だのが浄化されるとか言ってましたけど、浄化って要するに生命が生きられない死の世界にすることですよね。
歴史をさかのぼれば、戦争の多くは豊かな土地を手に入れるために起きるわけじゃないですか?殺し合いをしてまで豊かな土地を手に入れたいってのが人間なんで、物語において大地をめちゃくちゃにしようとする人物、組織にはよほどの動機が必要だと思うんですよ。そこが弱いと物語全体がぼやっとした印象になります。
たとえば、逆シャアでシャアが地球に隕石を落としたがるのはわかるじゃないですか?地球を人が住めないようにしたあとの、彼のヴィジョンは明確だから説得力があります。
でも、この人類補完計画後の世界って、いまいちよくわかんないですね。海と大地を浄化したあと、人間をよくわかんない存在に昇華するようなことを言ってましたっけ?正直、わかる範囲でもなんの魅力も感じないですね。
でも、計画後の世界に魅力感じてるからゼーレの人たちはやろうとしてるわけですよね?
独特な感性の持ち主しかゼーレに入れないんでしょうか。

結末についてなんですけど、そう仕向けられたこととはいえ、謎の超パワーで世界をめちゃくちゃにしたシンジくんが、謎の超パワーで世界をコンテニュー(上書き?書き換え?改変?)したと解釈したのですが当たってますかね?
一見、丸く収まったように見えますけど、前の世界で必死に生きてきた避難民村の人たちはどうなるんでしょうか?あんだけ丁寧に尺使って描いた人々の生活は全部なかったことになるのだったら、リセットしたのと変わらないと思うのですが。
他作品ですけど、まどマギも最後によくわかんない超パワーで世界変えちゃってましたね。一番萎えるパターンです。Fateが名作なのは過去に戻ってやり直したい、でもやり直さないからだと思うんですけどね。
綾波もカオルくんもいないめちゃくちゃになった世界で、避難民村の人たちと悲しみを背負いながらも力強く生きていくような結末とか、謎の超パワーを使ってとりあえず海と大地はもとに戻りましたとかそういう結末が観たかったですね。

ジェリーフィッシュは凍らない 市川 憂人 感想

文庫で読みました。
舞台は架空の国で登場人物も外国人名ばかりで覚えられるかな、とちょっとだけ読むハードルが高かったです。
しかし、読みはじめるとわりとあっという間に読んでしまいました。

ここからはネタバレありなんで未読の方は注意してくださいね。

物語のSFチックな部分は丁寧なんですけどトリックが雑な印象を受けました。
L字形のつっかえは、そういう形状のものを紐を使って、外から思いっきり引っ張れば可能な感じがしますし、クローズドサークルに死体をバラバラにして持ち込むのは「かまいたちの夜」とか、よく見るパターンですよね。
犯人の手記じゃないところに叙述トリックを仕込むという荒業を繰り出したにもかかわらず、そこに隠された真実は2つのジェリーフィッシュに分かれて移動、ってのもピンと来ませんました。目撃者の証言ですぐにわかりそうなもんだと思うのですが。

ジェリーフィッシュ内の事件編と解決編が交互に描かれるので、物語の印象がどちらも散漫になってしまっているような印象も受けます。
丁寧なSF描写もリアリティを出すためには必要なことだとは思うのですが、物語のテンポはそがれますね。
推理小説としては一定の評価を受けているようですが、物語の面白さはさほどではなかったです。

スウェーデン館の謎 有栖川有栖 感想

有栖川国名シリーズです。かなりの名作だと思いました。
まず舞台が会津磐梯のロッジっていうのがいいですね。自分が福島県民だからってのもありますが、静かな冬のロッジっていうのが、物悲しい殺人事件の舞台としてふさわしいと思います。
ストーリーの構成もいいですね。探偵役の火村は事件が起きてから、有栖に呼ばれるので、物語の途中からの登場となります。事件解決の突破口が見えず、行き詰まった閉鎖感の中での火村の登場はとても心強く感じました。京極夏彦の京極堂シリーズを思い出しました。あのシリーズは謎解き役の中禅寺の登場をめちゃくいちゃ引っ張りますからね。
登場人物もよかったです。童話作家の乙川リュウ、その妻ヴェロニカとそれぞれの親・育子とハンスは作者の中で人物の掘り下げをしっかりした上で描かれていると感じました。人物に血が通っているといいますか、キャラが立っているといいますか、そんな印象を受けます。切ない読後感に作品を仕上げるために、人物描写にも力を入れたんじゃないでしょうか。
最後にトリックですが、これもよかったです。ここから先はネタバレになりますので、未読の方は注意してください。
有栖川有栖は読者をうまいことミスリードしますね。足跡をつけた人物は靴の持ち主とは限らないという、ちょっと考えればわかりそうなことですが、折れた煙突にばかり意識をとられてしまい読んでる間、そのことに思い至りませんでした。
難点をあげれば乙川リュウが最後の方に犯した殺人未遂でしょうか。あれやっちゃうと同情できなくなりますね。

ロシア紅茶の謎 有栖川有栖 感想

有栖川有栖の短編集です。国名シリーズの第1作目にあたります。さくさく読めるので気軽に手にできますね。全6編の感想を簡単にですが、書いていきます。
ネタバレもあるので未読の方は注意してください。

動物園の暗号

動物園の鳴き真似が得意という特殊スキル持ちのアニマル岡田という容疑者がいましたが、事件に何も関係なかったです。思わせぶりなヤツだったな、と。動物園を舞台にして、この特殊スキル持ちの容疑者がいたらけっこう話広げられそうですよね。

屋根裏の散歩者

動物園の暗号と同じく暗号を解くことが犯人を見つけることとイコールになっています。ユーモアのある暗号だったと思います。なぞなぞのようでした。

赤い稲妻

雷鳴が轟く中、向かいのマンションで女性が転落するところを目撃してしまうとか、弁護士の愛人と妻が同時に不可解な死をとげるというシュチュエーションがよかったですね。質の高いエピソードだと思います。

ルーンの導き

この短編集の中でこれだけやけにクオリティが低い印象を受けました。思わせぶりにルーン文字について描かれていますが、ルーンじゃなくても碁石だろうがチェスのコマでもダイイングメッセージは成立しますからね。本の後ろの初出誌一覧を見ると、歴史読本の掲載作品だったようなので、企画に合わせて無理やり作劇したのではないかと邪推してしまいました。

ロシア紅茶の謎

表題作です。ジャムを入れた紅茶をロシア紅茶って言うんですね。知りませんでした。わざわざロシア紅茶ってタイトルをつけるのだから、ジャムに何か仕掛けてあるのかと思ったら、そうではなかったです。トリックはまるでわかりませんでしたが、犯人はなんとなく察しがつきました。その人物を気合を入れて描いているように感じましたし、恋愛の曲を作ってる作詞家が被害者だったので。火村が大した度胸だと犯行を評していましたが、魅力のある犯人でした。

八角形の罠

この短編集で一番楽しめたエピソードです。ミステリーと劇場の相性は抜群ですね。シュチュエーションだけで興味をひかれます。短編ながら続けて2つの事件が起こるので読み応えがありました。

妹さえいればいい12巻 感想

ひさしぶりに「妹さえいればいい」の感想です。
海津とアシュリーがくっついてよかった。海津の生き様がすごくカッコイイと思うんですよ。この人ってヒット作を書けなくても、作家を何年もやってるんだから、才能がないわけではないじゃないですか。ただガチの天才がまわりにいくらでもいるから、相対的に凡人に見えるだけで。

……あいつの葬式のとき誓ったんだよ。俺は一生、しみったれた作品を書き続けてこの世界にのうのうと居座り続けてやるって。……才能のカケラもない、大ヒット作とも誰かの人生を変えるような傑作とも無縁な平凡な作家が、それでも平気な顔して生きていることで、才能と感受性豊かな後輩たちに『こんなんでもいいんだ。もっとお気楽に生きていけばいいんだ』ってことを示し続けてやる―ってな

孤独な戦いですよね。
だから、そばにいてくれる人ができて本当によかったと思います。この二人の関係が魅力的なのと比べると、12巻の後半で伊月と那由多がヨリを戻すのは軽く感じましたね。
海津とアシュリーは失った者同士ですし、海津に関しては持たざるものじゃないですか。それに比べると伊月と那由多は失ってもいないし、それどころか才能を持ってる者同士、若くして成功した者同士なんですよね。読者に訴えてくる重みが違いすぎるというか…
話の展開もアシュリーに気のある後輩が現れるのに対し、那由多に気がある役者が現れたりと似通ってて、このふた組のカップルはなんか比べてしまうんですよ。わざと対比してるように描いているのかな?
まだ伊月が「俺が主人公になるまでは、那由多とは付き合わない」とか言ってるうちは感情移入できたんですけどね。いまでは「主人公にはなれない」とか言ってると、何言ってんだこいつ。みたいな感覚になっちゃうんですよね。以前もブログに書きましたけど伊月は感情移入しづらいんですよ。

nakanet.hatenablog.com


これ言っちゃうと野暮ですが、小説の主人公が「俺は主人公になれない」とかいっても「は?」って感じあるじゃないですか。
主人公「俺は主人公にはなれない」
ですよ。
OPの最初のフレーズで「アニメじゃない」とか言ってるアニメとか、平成で一番売れた曲なのに「ナンバー1にならなくてもいい」とか言ってるようなもんですよ。どっちもいい曲ですけどね。
伊月と那由多を見てると、むかしままごと婚とか言われた芸能人カップルを思い出しますわ。
……後半ボロカス言いましたが、好きな作品なんですよ。
海津と不破くんはめちゃくちゃ応援したくなりますし、いろんな作家の生き様が魅力的な作品だと思うので読み続けます。